就業規則とは?雇用契約書があれば就業規則は無くてもいい?

「従業員が10人以上になれば、就業規則をつくらなければいけない」
という話をお聞きになったことがあるかもしれません。
今、この記事を読んで下さっているあなたも、
「スタッフが増えてきたから就業規則をつくらないと!」
と慌てて検索して、ここに辿り着いて下さったのかもしれませんね。
(ご覧いただき、ありがとうございます!)

では、就業規則とはいったい何でしょう?
なぜ、就業規則が必要なのでしょう?

人を雇うと必ず出てくる、労働法の問題

クリニックという業態では
院長先生がお一人で運営されることはあまりないでしょうから、
たいていはスタッフを雇用されることと思います。

一人でもスタッフを雇用すると出てくるのが、労働法の問題。

労働法というのは、
そういう名前の法律が一つあるというわけではなく、
労働に関連する法律をまとめた総称です。

労働法に属する法律を挙げると、
「労働基準法」、「労働契約法」、「労働安全衛生法」、「育児・介護休業法」、「最低賃金法」、「パートタイム・有期雇用労働法」、「職業安定法」、「労働者派遣法」、「労働者災害補償保険法」、「雇用保険法」、「男女雇用機会均等法」・・・多いですね。
でも、まだまだたくさんあります(正式名称が長いものは略称にしています)。

人を雇うということは、こんなにたくさんの法律が関係してくるんです。
これらの法律一つひとつにルールが規定されていて、
クリニックとスタッフとの関係に影響を与えています。

とはいえ、経営者がそれらの法律をすべて頭に叩き込むなんてことは不可能ですよね。

一方、法律に反しないよう、組織のルールは必要です。
クリニックとスタッフとの間に何もルールがなければ、
何かあるごとに各法律を参照することになり現実的ではないからです。

そこで、就業規則の出番です。
労働基準法89条によって、常時10人以上の労働者を使用する使用者には
就業規則を作成して届け出ることが義務付けられています。

就業規則とは?

本来、賃金や労働時間などの労働条件は、
クリニックがスタッフそれぞれと個別に合意すればよく、
一人ずつ雇用契約を結べばよい、というのが原則です。
これは労働法の土台である民法の「契約自由の原則」に基づいた考えです。

しかし、解雇や懲戒なども含むすべての労働条件を雇用契約の中で規定するとなると、
その内容は膨大な量になってしまいます。
また、特に新卒一括採用での年功序列人事システムがとられてきた日本においては、
従業員ごとバラバラに契約で管理するよりも、
組織で統一的に基本ルールを定める方法が採用されてきたという実情もあります。

そのような経緯から、
「就業規則」という統一的・画一的なルールをつくり、
その基準にしたがって、
個別の雇用契約で従業員ごとに具体的な労働条件(賃金の額や就業時刻など)を決定する、
というのが我が国のやり方として定着しました。

だから、就業規則と雇用契約とは、切っても切り離せない関係。
どちらも従業員の労働条件を決めるものであり、
何かトラブルがあるごとに必ず立ち返ってくる場所です。

就業規則と雇用契約との関係

多くのクリニックで話をお聞きして分かったのが、
「雇用契約書はあるが、就業規則はない」
という場合がとても多いということ。

本来、就業規則と雇用契約はセットで運用するものです。

でも、就業規則をつくるとなるとハードルが高いので、
とりあえず雇用契約書だけは用意して何とかしのいでいる。
そんなクリニックが多い印象です。

このような場合、弊所では就業規則作成のご依頼を受けたときには必ず、
スタッフの雇用契約書を確認させていただいています。
本当は全員分を確認したいところですが、
100人規模になってくるとそういうわけもいかないので、
・雇用期間(無期雇用か有期雇用か)、
・働き方(常勤・非常勤・パート)、
・職務の内容(事務職・看護職・医師職・歯科衛生士や言語聴覚士等の各専門職)
など、労働条件のカテゴリごとに分類して、それぞれに該当する方の雇用契約書を見せていただいています。

なぜ雇用契約書を必ず確認するかというと、
雇用契約の内容と就業規則の内容に違いが生じた場合、
「どちらが優先されるか」という問題が生じるからです。

たとえば、
あるスタッフの雇用契約書には「賞与:有り」と規定されているのに、
就業規則で「賞与は支給しない」と規定すると、
雇用契約と就業規則では労働条件が異なることになってしまいます。

この場合、雇用契約と就業規則、どちらの労働条件が優先されるのでしょう?

結論から申し上げると、
労働者にとって有利な方が優先されます。

実は、就業規則には「最低基準効」といって、
就業規則に達しない労働条件を定める雇用契約を無効にしてしまう効力があります。
そのため、これによって無効になった部分は、
いくら雇用契約に書かれていたとしても、
就業規則の基準まで引き上げられます(労働契約法12条)。

一方、就業規則より雇用契約の方が労働者にとって有利な部分は、
そのまま雇用契約の基準が適用されます。

つまり、雇用契約の内容のうち、
・労働者にとって有利な部分はそのままで
・不利な部分は就業規則の基準に修正される
ということになります。
先の例でいえば、賞与は「有り」の方が労働者にとって有利なので、
雇用契約書の「賞与:有り」が優先されるというわけです。

逆に、雇用契約書には「賞与:無し」と書かれているのに、
就業規則で「賞与を支給する」と規定した場合は、
労働者にとって有利な方、
すなわち就業規則の「賞与を支給する」という定めが優先されます。
これは、クリニックにとって思わぬ効力ではないでしょうか。

「雇用契約を結んだときには賞与をあげないつもりだったけど、これからは賞与を支給しよう!」
と考えて積極的に就業規則へ規定したのならよいですが、
そういうつもりでなく、
インターネットなどで入手した雛形を使って何となく作った就業規則だった場合、
クリニックにとっては思ってもみない事態でしょう。

だから、就業規則をつくる際は必ず雇用契約とセットで考えることが大切です。

社会保険労務士などの専門家に依頼する場合は問題ないと思いますが、
ご自身で作成される場合はくれぐれもご注意いただきたいと思います。


当事務所では、他院での実施事例をもとに各院に応じた制度設計をご提案し、
クリニックに適した就業規則の作成・届出から日々の運用に至るまで総合的にサポートしております。
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