クリニックの労務

クリニック特有の労務問題とは

医療機関における人事労務は一般企業とやや異なり、業界特有の問題が発生します。他の業種ではあまり見られない特徴があるため、それらを前提とした医療機関独自の対策が必要です。

人事労務の観点からみたクリニック特有の問題

職種の異なるスタッフが混在
 クリニックでは、看護師や医療事務、歯科衛生士、理学療法士、言語聴覚士など、役割に応じて職種の異なるスタッフが働いています。職種ごとに労働条件が異なることが多いため、労務管理は他業種に比べ複雑になりがちです。
 同じ職種でも常勤職員とパート職員がいるとなると、さらに管理は複雑に。待遇差を起因とする労務トラブルに発展しやすい環境といえます。
残業の発生と労働時間管理
 医療機関という特性により、受診を希望する患者さんを拒否できないため、残業が発生しがちです。残業には割増賃金が必要ですが、曜日や日によって診療終了時刻もまちまちであるため、変形労働時間制の採用など工夫が必要です。一般的な労働時間管理では、割増賃金を多く払うことに。
突然の退職や休職
 クリニックの特徴として、女性スタッフが多いことも挙げられます。配偶者の転勤や出産などで、突然の退職や休職を申し出てこられる場合が多くあります。
勤務シフトの多様性
 パート職員が多い点もクリニックの特徴です。診療時間、つまり職員にとっての労働時間が午前と午後に分かれていることで、午前または午後のみの勤務を固定する場合もあれば月ごとにシフトを調整する場合もあり、労働時間の管理が複雑になっています。
専門職の代替人員不足
 クリニックでは、看護師や技師などの専門職が最低限の人数で運営されていることが多く、何かの要因で休職者が出た場合に代わりとなる職員がおらず、困ることがあります。クラークが1人しかおらず、妊娠で休職となり診療が回らなくなったということが往々にして起こり得ます。
労働条件に敏感
 職員同士で給与や手当を言い合うなど労働条件を比較し、待遇に不平を感じると、権利を主張し改善を要求してこられる場合があります。自身の待遇だけでなく、ときには正義感から、同僚の待遇について声を上げてこられる場合も。
 職員からの権利主張が正当なものであれば、クリニックはもちろんそれに対応しなければなりません。しかしその対応に問題があれば、職員が結託し、院長先生対スタッフ全員という最悪の構図となってしまう恐れも。悪化すれば労働紛争に発展しかねません。

「使用者」として院長先生がなすべきことは

 院長先生ご自身は、長時間の労働や休日を返上した研究活動など過酷な労働環境の中で、医師として日々患者さんに向き合ってこられたことと存じます。

 しかしながら、雇われた人が先生と同じように働いてくれるとは限りません。職種や勤務形態、仕事に対する意欲も異なる複数のスタッフを抱える一方で、医師として、経営者として、やるべきことがあふれている日々の中、複雑な労務管理をこなすのは容易なことではありません。

 また、労働基準法をはじめとする法令においては、使用者に比べ、労働者の権利が厚く保護されています。法や制度を味方とする労働者に比べ、使用者である院長先生の味方となるものは多くないのが現状です。

 ひとたび労働紛争となれば、使用者側は不利です。他の業界に比べ、より複雑な労働管理が必要であるのが医療業界の特徴であるのにもかかわらず、労務リスクへの対応は他の業界より遅れています。度重なる労働法規の改正や働き方改革、医療制度改革など、業界に適した労務管理が今こそ必要であるといえるでしょう。

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