医療機関に適した変形労働時間制

クリニックに最適な「1か月単位の変形労働時間制」をご存知ですか?

■先生、その勤務設定は違法です!

スタッフの勤務時間、このような設定になっているクリニックはありませんか?

曜日
午前勤務 8:30~12:30 8:30~12:30 8:30~12:30 休み 8:30~12:30 8:30~12:30 休み
午後勤務 14:30~19:30 14:30~19:30 14:30~19:30 休み 14:30~19:30 休み 休み

あるいは、このようになっていませんか?

曜日
午前勤務 8:30~12:30 8:30~12:30 8:30~12:30 休み 8:30~12:30 8:30~12:30 休み
予防接種
健診
13:30~16:00
午後勤務 15:30~19:30 15:30~19:30 15:30~19:30 休み 15:30~19:30 休み 休み

診療時間に合わせてスタッフの勤務時間を設定すると、上のような設計になってしまうことがありますよね。

それ、どちらも「違法」です。

労働基準法では、1日8時間・週40時間を法定労働時間として、それらを超える労働を禁じています(同法第32条)。
上の例では、どちらも週40時間以内にはなっているものの、1日8時間を超える設定の日があるため労働基準法違反となってしまいます。
(1つ目の例)平日の所定労働時間が9時間になっており、法定労働時間を超えるため違法
(2つ目の例)火曜日の所定労働時間が10時間になっており、法定労働時間を超えるため違法

各コマをシフト制にして1日8時間を超えないようシフトを組むなら良いのですが、
すべてのコマを所定労働時間として常勤スタッフに勤務設定する場合、このような設計では違法となってしまいます。

・・・困りましたね。
医療機関はその性質上、スタッフに働いてほしい勤務時間が長くなりがちです。
診療時間に合わせてスタッフの所定労働時間を組みたいのに、1日8時間の制限があって組めない…。
そんなお悩みを先生方からよくいただきます。

でも、大丈夫。安心して下さい。
そのような場合でも違法とならずに勤務設計ができるよう、労働基準法には特例が用意されています。

■診療時間に合わせて常勤スタッフの勤務時間を設計するには

スタッフの勤務が8時間を超えるような診療時間の長い日がある場合におすすめの制度があります。

「1か月単位の変形労働時間制」という制度です。

この制度を利用すれば、1日8時間を超える勤務時間の設定が可能になります。

所定労働時間は1日8時間を超えていない(違法ではない)ものの、
残業により労働時間が8時間を超えるため毎日残業代を払っている、という場合にもおすすめです。
また、レセプトの集中する月末や月初に残業時間が多くなるというクリニックにもおすすめです。

■「1か月単位の変形労働時間制」とは

この制度は、1か月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以内となるように、
労働日や労働日ごとの労働時間を設定することで、労働時間が特定の日に8時間を超えたり、
特定の週に40時間を超えたりすることが可能になる制度です(労働基準法第32条の2)。

・・・といっても分かりづらいですよね。

要は、
・週で見ると40時間以内におさまるのに
・日で見ると8時間を超える日がある(8時間を超える時間を勤務時間にしたい)
というクリニックは、是非取り入れるべき制度ということです。

これで違法状態も解消され、さらに残業代も削減できるというオマケつき。
やらない手はないでしょう?

■クリニックでの活用法は

1か月単位の変形労働時間制を活用すれば、次のような柔軟な労働時間設計が可能になります。

(例1)平日に休診日を設け、1日の勤務時間を長くしたい:可能です!
木・日が休診日なら、月・火・水・金の所定労働時間を9時間に設定し、土曜日を4時間とする。
⇒1日8時間を超える日がありますが、1か月単位の変形労働時間制ならばOK。
さらに、月・火・水・金は8時間を超えているのに残業代不要(※)です。

(例2)特定の日の勤務時間を長くしたい:可能です!
予防接種や健診、手術、予約診療枠などを設ける日は診療時間が長くなり、スタッフの勤務時間も10時間など長時間になりがち。
たとえば、火曜日の所定労働時間は10時間、月・水・金は8時間、土曜日は4時間、木・日は休診など。
⇒火曜日は1日8時間を超えていますが、1か月単位の変形労働時間制ならばOK。さらに、残業代も不要(※)です。

(例3)レセプト業務が集中する週だけ多めに勤務時間を設定したい:可能です!
レセプト業務の集中により残業が発生しそうな月末や月初の週だけ、1日の所定労働時間を9時間に。その他の期間は1日7時間に設定。
⇒レセプト週の所定労働時間が40時間を超えても、1か月の平均が40時間以内となるようその他の週で調整すればOK。
1か月単位の変形労働時間制だからこそ可能になる労働時間設計です。

※所定労働時間を超えて残業した分の残業代は必要です。

■1か月単位の変形労働時間制を導入するには

このようにとても便利な変形労働時間制ですが、導入にあたっては手続きが必要です。
労使協定や就業規則で一定の事項を定めて届け出なければ導入できません。

雇用契約書に「変形労働時間制による」とだけ記載して
勝手に変形労働時間制を始めてしまっているクリニックをしばしば拝見しますが、

それ、違法ですから絶対にやめて下さい!!

労使協定や就業規則と書きましたが、
従業員が10名以上いらっしゃる場合はそもそも就業規則の作成義務があります。
従業員10名以上のクリニックで就業規則がない場合は、
まずは就業規則を作成したうえで変形労働時間制の条項を盛り込むようにしましょう。

また、従業員10名未満のクリニックでも、
変形労働時間制を入れるとなると正確な労働時間管理が必要になりますので、
義務はなくとも就業規則を作成する方がよいでしょう。

■1か月単位の変形労働時間制で気をつけるべきこと

変形労働時間制については誤ったルール設計や管理方法がなされている事業所が多く、
しばしば従業員からの未払い賃金請求事件に発展しています。
裁判所の判断は使用者に厳しいものが多く、変形労働時間制が認められなければ、
法定通りの方法(1日8時間・週40時間)で残業時間を計算し直されて莫大な未払い賃金の支払いが求められることも。
未払い賃金は過去2年(2020年4月以降の賃金では過去3年)に遡って請求されるため、
訴え出てくるスタッフが複数いれば相当な金額になるでしょう。

クリニックで特に気をつけていただきたいのが、シフト制と変形労働時間制を組み合わせたパターンです。
勤務する曜日が決まっておらず、
1週のうちどの日に入るかはスタッフの希望を聞いて1か月分まとめて前月にシフトを作っています、というパターンです。
クリニックには多いのではないでしょうか。

この運用自体は構わないのですが、これに変形労働時間制を組み合わせた場合、
裁判所の求める要件に合わせて適法に運用しようとするのは至難の業です。

どのように運用すれば適法となるかを判断するのは、正直、専門家でないと難しいと思います。
労働基準監督署に相談して教えてもらったとしても、
裁判所の判断はさらに厳しいため、紛争時にそれで耐えられるとは限りません。

シフト制を採用されているクリニックで
1か月単位の変形労働時間制を導入されたい場合(あるいは勝手に始めてしまっている場合)は、
必ず一度は社会保険労務士や弁護士にご相談されるようおすすめします。
知らずに違法な運用をされているケースが圧倒的に多いです。

■変形労働時間制の制度設計から導入までサポートいたします

変形労働時間制は柔軟な働き方を可能にする一方で、
正しく運用できなければ莫大な未払い賃金が発生するという諸刃の剣でもあります。

当事務所では、他院での実施事例をもとに各院に応じた制度設計をご提案し、
規定の作成・届出から日々の運用に至るまで、クリニックにとことん寄り添ってサポートしております。
「1か月単位の変形労働時間制に興味はあるけど、どのように運用すればよいのか不安」
という場合は、ご遠慮なくお気軽にご相談下さい(全国対応しています)。
⇒お問合せはこちらから

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